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レア・リンスター/
1955年4月27日生まれ。ルクセンブルクのレストラン、レアリンスターオーナーシェフ。87年にミシュランの星を獲得し、89年には、フランスのリヨンで2年に一度開催される世界最高峰の料理コンクール、Boucuse d’Or(ボキューズ・ドール)において、金メダルを女性で初めて受賞。2018年1月現在、女性で唯一の金メダル受賞者でもある。以後25年以上にわたり国際料理シーンで中心人物として活躍し、ドイツの有名な番組「The Taste」で2年連続の審査員を務めるなど、テレビ出演や著書も多数。

http://www.lealinster.lu/fr/lea-linster-group/

喫することで背筋が伸びたり、ホッと気持ちがほぐれたり…飲み物としてだけでない神秘的な魅力をもつ「お茶」。今回はわさびとの共通項やその日本らしい奥深さ楽しさを、櫻井さんの語りからひもといてみました。

旅のはじまりは、小さなソラマメのひと皿から

到着した日の夜、鮨店で出たソラマメの塩ゆでに、私は心をつかまれてしまいました。ルクセンブルクでソラマメは、ナショナルビーンと呼ばれるほどの食材。私にとっても、たいへん身近な存在なんです。でも、このソラマメの味と食感は初めて経験するものでした。バランスのとれた塩味と素材感を感じる小さなひと皿との出会いに、これから始まる旅の「おいしさ」と「たのしさ」を予感しました。

素材の味を生かすという考え方

目黒の八雲茶寮では、梅原総料理長の創り上げる世界にすっかり魅了されました。中でもぶり大根は、うれしいサプライズが!見た目は、シンプルなふろふき大根なのですが、中にフレーク状になったぶりかまの身とホロホロの小さな骨が入っていたのです。料理人の細やかな総意工夫が施されていて、おいしさはもちろん和食の持つ奥深さに引き込まれてしまいました。
大根は、丁寧に引いた出汁でやわらかく炊き上げられ、自然な甘みとほんの少しの土のにおいを感じ、骨まで煮込んだぶりとの相性も見事でした。自然に寄り添った調理法で素材の味を生かした梅原さんの料理哲学は、私と似ていると思います。フランス料理と日本料理は違うと感じていたのですが、根本は同じなのだと確信しました。

美しい自然が育む わさび沢のわさびとの出会い

伊豆のわさび沢と万城食品のわさび工場でも貴重な経験をしました。流れる水の清らかさと、青々としたわさびが、なんともきれいで目を奪われてしまいました。サラダに使えそうだと思ってわさびの葉を一枚、口に含んでかみしめると、爽やかな刺激が広がるんです。芋の部分をサメ皮ですりおろしてみたのですが、それも初めての経験で忘れられない思い出になりました。
万城食品のテストキッチンでは、わさび入りのクレームシャンティをいただきました。たっぷりと空気を含んだ軽い生クリームに適量のわさび。意外な組み合わせですが、辛さと甘さのバランスがとれていて、料理の持つ組み合わせの妙を感じた一品です。私もわさびを使ったスイーツを作ってみたいと思います。

蒲焼きのたれから広がる可能性

もう一つ気に入った調味料が、たまり醤油がベースで甘すぎず、ほどよいとろみと、ほのかに感じるほろ苦さを持つ蒲焼きのたれです。ヨーロッパでも受け入れられる味だと確信しています。化学調味料を使っていない品質の高さにも着目しました。このたれにはスープや料理などいろんな可能性を感じます。持ち帰っていろいろ試してみたいですね。

食を通してつながる人との輪

本当に実りの多い旅でしたね。日本の皆さんのホスピタリティ溢れるおもてなし、和食の持つ繊細さや奥深さに感動しました。私の味を受け継ぎ、レストランの厨房に立つ息子のために、築地の包丁をお土産にしました。和食の持つ魅力も一緒に伝えたいと思います。何より、この旅の一番大きな収穫は、料理に対する考え方を共有できる梅原さんや万城食品との出会いでした。この旅で私たちは食を通して、家族のような存在になりました。私たちみんなの人生を豊かにする『もっとおいしく、もっとたのしく(mots)』をもっと広げていきたいと思います。